マーク・オブライエン 氏
ご丁寧なご紹介をいただきましてありがとうございます。そして日本年金数理人会に対しまして、今回このような会にお招きをいただき、プレゼンテーションをさせていただくことができますことを大変うれしく思います。ありがとうございます。少しでも皆様方の参考になればと思ってお話をさせていただきます。
ローマン氏からは日本とアメリカの間の文化的な違いについて、そしてその文化的な違いがそれぞれの国の退職所得制度にどのように影響しているのかについてお話がありました。オーストラリアと日本の文化の違いについては、かなりの部分でアメリカと日本の違いにも通ずるところがありますので、私のほうは文化の違いの話というより、オーストラリアの退職所得制度のについて概要をお話をさせていただきたいと思います。
私のプレゼンテーションはオーストラリアにフォーカスをしてお話をしていきますが、その中である程度日本あるいはそのほかの国との比較もするようにしていきます。さまざまな国の相対的な状況がわかるようにしたいということです。統計とかグラフとか、そういったものも資料の中にはいっていますが、これはあくまでも皆様方にあとで参考にしていただくための資料として用意しています。もちろんすべてをこのプレゼンテーションの中でカバーすることは時間的に無理ですので、それぞれのスライドの重要なポイントだけをお話ししてまいります。
私がこれからお話しすることは、オーストラリアアクチュアリー会あるいはタワーズペリンの公式見解ではありません。あくまでも私の私見ですし、もし何か間違いやエラー、漏れがあれば、これはすべて私の責任だということを、最初にお断りしておきます。
Agenda
これから申し上げる7項目についてお話しします。まず1点目、オーストラリアの背景についての説明、2点目はオーストラリアの退職所得制度の歴史と進化について、3点目はオーストラリアの退職所得制度の現状について、そして4点目は、オーストラリアアクチュアリー会、それからスーパーアニュエーションにおいてどのような役割をオーストラリアのアクチュアリーが果たしているかということについて、そして5点目は、スーパーアニュエーションが現在直面する問題、これから直面するであろう課題についてお話をしてまいります。6点目は日本の退職所得制度との比較を試みたいと思います。そして7番目にまとめをさせていただきます。
もしさらにご興味があるようでしたら、資料の最後のほうに参考文献リストを載せていますので、後日参考になさってください。
Background About Australia
まず最初の部分で基本的な数字をお見せしておいたほうがいいと思いまして、このスライドを用意しました。日本とオーストラリアの主な違いはどういうところにあるのか。まず日本の人口はオーストラリアの6倍です。一方、オーストラリアの国土は日本の19倍です。日本のGDPはオーストラリアの9倍、平均寿命でいいますと、日本とオーストラリアはだいたい同じぐらいになっています。日本の政府債務残高は、オーストラリアの政府債務残高の220倍に上っています。日本の年間の税収はオーストラリアの3倍です。また、日本はオーストラリアの3倍のアクチュアリーを有しています。日本はオーストラリアの115倍の確定給付プランを有しています。
Background About Australia
オーストラリアについてざっと申し上げますと、オーストラリアが発見されたのが1770年、それからイギリスの辺境にある入植地としてその歴史が始まりました。当初は人口も緩やかにしか増えていきませんでしたが、1950年代になって人口の伸びが加速し、現在は2000万人ほどとなっています。
Background About Australia
人口増加の要因を見てみますと、1910年から1950年の間、海外からのオーストラリアへの移民が著しく増加しました。それから1900年代初めと1940年代終わりにベビーブームがありました。人口の自然増に比べ、移民による人口の増減は激しくアップダウンしています。
Background About Australia
人口の自然増加の内訳を見ますと、出生率が低下していまして、いまや人口置換水準を下回る水準となっています。死亡率は安定しているもののだんだんと下がってきています。このため、2030年代の半ばには出生率と死亡率が交差すると言われています。
Background About Australia
このグラフは1901年の時点と2001年の時点でのオーストラリアの人口データを比較したものです。ご覧いただいたとおり人口が増えて高齢化していることがおわかりいただけます。これとともに人々の考え方、理想も変わってきました。たとえば以前のような大家族ではなくて、家族が核家族化して、小さな家族になっていく等の傾向があります。いま30歳から55歳の間の段階の世代が今後5年から30年の間に大量に定年を迎えます。
Background About Australia
このグラフはGDPと国民1人当たりのGDPの伸びを示していますが、振り返ってみますと過去25年の間に数回景気後退期があったことがわかります。ここ10年から15年は比較的高い成長を遂げていて、アジアの通貨危機とかアメリカやユーロ圏の経済の減速がありましたが、オーストラリア経済はあまりその影響を受けないでここまできています。
Background About Australia
こちらは平均賃金の伸びを示したグラフです。賃金は着実な伸びを示していますが、最近の経済成長期には賃金の伸びが抑制され気味という傾向があります。州や業種によって平均賃金が大きく異なることは、このデータには必ずしも表されていません。また、女性の平均賃金は、男性の平均賃金に比べてまだ低い状態が続いていますが、少しずつではありますが、女性の平均賃金も男性のそれに近づいてきています。
Background About Australia
OECDの平均と比較したオーストラリア政府の純債務額を示していますが、2002年にはGDPの4%ぐらいまで下がりました。ほかの主要国に比べますと財政状態は良好であることがいえます。ただ、オーストラリアはまったく問題を抱えていないわけではなく、やはりいろいろな課題もあります。
Background About Australia
ここまでは過去を振り返ってきましたが、これから今後オーストラリアが直面するであろう課題にはどういうものがあるのかということをお話ししたいと思います。こちらのグラフはオーストラリアの出生率の推移を示したグラフですが、いまの出生率の水準は人口置換水準を下回るレベルにまで落ちています。これは人口構造の変化や人々の考え方が変わってきていることによります。出生率はさらに今後低下するだろうと言われています。オーストラリアの状況は、たとえば日本やイタリアやスウェーデンよりはいいかもしれませんが、このような課題を抱えています。
Background About Australia
こちらの表は現在の、それから将来の出生児の平均寿命を示しています。死亡率は全世代で低下傾向にあります。日本の平均寿命と非常に似た水準となっています。平均寿命は、2042年に生まれた男性については、いまよりも5.3年長くなり、女性については4.9年長くなると予想されています。退職所得、介護、医療給付にとってこれらは深刻な課題を呈しています。
Background About Australia
こちらでは将来における年齢分布を見ています。総人口は今後とも増えると見られていますが、その伸び率は低下するだろうと言われています。また若年世代、10歳から14歳ぐらいまでの割合が出生率の低下とともに今後変化していき、また65歳以上の人口が高齢化と寿命の伸びで、いまとは相当違う様相を呈していくだろうと言われています。65歳以上の占める割合は2002年13%でしたが、2042年には25%まで増えると予測されています。
Background About Australia
こちらのグラフですが、生産年齢人口に対する子どもと高齢者の比率を見たものとなっています。生産年齢人口への依存率ですが、いまはこれがボトム、最低線に近い50%ぐらいですが、これが2042年には65%に達するとみられています。つまり生産年齢人口1.5人当たりで1人の子どもまたは1人の高齢者をみるかたちになります。生産年齢人口に対する高齢者の割合は2002年に19%でしたが、これが2042年には41%に達するとみられています。社会保障と自己資金によるプログラムを適切に統合して自助努力を促していかないと、今後オーストラリアの生産年齢人口、政府の社会保障財政、つまり老齢年金とか医療とか介護に大きな負担となってくることを意味しています。
Background About Australia
こちらの棒グラフですが、実質GDP成長率、それから1人当たりの実質GDP成長率を見ています。生産性の伸びの低下と、労働人口の伸びの低下、そして労働力参加率の低下により、成長は今後減速すると予想されています。結果として生活水準の伸びも鈍化すると予想されます。
History and Evolution of Australia's Retirement Income System
ここまででオーストラリアが置かれている環境についてお話ししてきましたが、この先はオーストラリアの退職所得制度の歴史と進化についてお話ししたいと思います。
まず1890年までの状況ですが、1890年まではオーストラリアには政府による公式な政策がありませんでした。社会保障はほぼ家族とか慈善事業に頼っていました。イギリスには貧民救済法がありましたが、これをオーストラリアに導入することについては消極的でした。何にもまして人々の自助努力に依存するかたちを取っていました。貯蓄支援のために生命保険とか共済組合が設立されましたが、これはあくまでも金持ちにしか利用できなかったり、制度が破綻してしまったりということでうまくいきませんでした。スーパーアニュエーションファンドは1856年に設立されましたが、もともとはメソジスト派教会の基金として設立されたものです。1890年代の終わりになっても金持ちの雇用主しか基金がありませんでした。
History and Evolution of Australia's Retirement Income System
1890年から1910年にかけて慈善団体も高齢化と景気後退で財政状況が苦しくなり、政府に代わって社会保障を提供することがなかなかできなくなってきました。そこで慈善団体や労働運動が高齢者への支援を政府に働きかけました。当時の政府は老齢年金制度について海外動向の調査などを行いましたが、その結果として福祉モデルを採択しました。つまりオーストラリアが採択した制度は、給付財源は一般税収を使い、必要に迫られていると思われる人にだけ絞って、フラットな給付を行うというものでした。
History and Evolution of Australia's Retirement Income System
なぜオーストラリアで福祉モデルが採択されたのかということですが、まずコストが安いということ、それからもともと必要としている人にだけ絞って援助をするという考え方がありました。オーストラリアのシステムはある意味ユニークだということができると思います。ほとんどの国においては国がやる保険モデル、つまり国民皆年金モデルが採択されているので、それと違うという意味でユニークです。当初の老齢年金の給付額は最低限の生活を保障するレベルでした。そして65歳以上で評判がいい人にだけ支払われました。
History and Evolution of Australia's Retirement Income System
1910年から1980年代の始めまで、オーストラリアの福祉モデルは激しい批判にさらされました。政府は国が行う保険モデルの研究を4回行っています。どのような激しい批判がなされたのかといいますと、この拠出に基づかない制度は無責任である。財政的にも健全でない。そして逆選択の土壌を生み、貯蓄意欲をそぐのではないかという批判が行われました。コスト的にも非常に普及したシステムとなってしまい、高齢化とともに政府のコスト負担が増大していたという背景があります。
History and Evolution of Australia's Retirement Income System
1980年代の終わりまでオーストラリアにおいては、企業がスポンサーとなった給付はまだ義務、強制とはなっていませんでした。スーパーアニュエーションファンドは従業員の福祉を考えた善意であると考えられており、大事な人材を引き止めるための道具であると考えられていました。オーストラリアの憲法では政府がスーパーアニュエーションのカバレッジを義務付けることは許されていませんでしたが、政府は税制優遇措置を講じることでスーパーアニュエーションの導入を奨励しています。ただし減税による拡大だけでは利害関係者、ステークホルダーにとっての最も望ましいストラクチャーにはならなかったため、減税措置だけではまだ不十分でした。
History and Evolution of Australia's Retirement Income System
税制優遇措置を導入することによってスーパーアニュエーションの普及を図ろうというやり方はうまく機能しませんでした。まずカバレッジが低すぎるということがありましたし、高所得層にバイアスがかかってしまっていました。年金ではなく一括払いの給付で、しかも退職所得目的で給付が使用されていなかったという実態もありました。また、社会保障との統合が進まなかったために国の財政に負担がかかり続けたという問題もはらんでいました。
その結果、労働組合などの働きかけもあり、1985年に法定スーパーアニュエーションを通じて企業がスポンサーとなる強制的なスーパーアニュエーションが導入されました。そして1992年にスーパーアニュエーションギャランティーチャージ、いわゆるSG法という法律が導入されました。
History and Evolution of Australia's Retirement Income System
雇用主はこのSG制度の下で、収益の最低9%を従業員一人ひとりに代わってファンドに拠出しなければならないという要件となっています。また、最低拠出をしない場合には同等の課税がなされます。それから即時権利付与をしなければなりません。確定給付の場合はアクチュアリーの証明が必要である等々の要件がこれによって導入されました。
History and Evolution of Australia's Retirement Income System
適格スーパーアニュエーションファンドの税制上の扱いについてお話をいたします。スーパーアニュエーションファンドはほかの貯蓄や所得と違い、税制優遇措置の対象となります。1988年まではスーパーアニュエーションファンドは免税対象となっていましたが、給付には課税されていました。1988年、政府はファンドに対して、すべての掛金や所得に15%の税を課すようになりました。そしてこの変更によってさまざまな事象が複雑になってしまいましたが、この変更を行うことにより、政府は税収を前倒しすることができました。この新しい税制は累進的というよりは、どちらかというと累減的となっています。そこで政府は1996年に高所得者層に対してのみに課徴金の制度を導入しました。
History and Evolution of Australia's Retirement Income System
雇用主の給付への掛金、拠出金は一定の限度までは控除の対象となります。一方、従業員は通常掛金に対して控除を得ることができません。ただし税引き後の拠出に基づいた関連給付は無税扱いとなります。適格スーパーアニュエーションファンドに対しては控除が認められます。給付への課税は非常に複雑で、給付上限に基づいて課税を計算しています。年金の給付上限、RBLは一括払いのRBL給付上限の約2倍となっており、給付の少なくとも50%を適格年金として受け取ることを奨励するための措置です。RBLの給付上限を超える給付については最高の限界税率で課税され、税金の払戻はありません。
Current State of Australia's Retirement Income System
退職所得制度のこれまでの歴史を考えたときに、現状はどうなっているのでしょうか。オーストラリアの制度は現在ティア1、ティア2、ティア3からなる3階建ての制度になっています。まずティア1ですが、福祉モデルのエイジペンションとなっていまして、フラットな給付、それから資産調査をして給付をします。そして賦課方式であるとか、セイフティネットとしての機能を備えており、受給年齢が65歳という特徴を有しているのがティア1です。
ティア2は強制的スーパーアニュエーションと呼ばれる部分で、賃金の9%、または確定給付相当を事前積立するのがこれです。これは税制優遇措置の対象となります。一括払いまたは年金というかたちで給付を受け取ることができ、通常は60歳から給付年齢となります。
最上階のティア3ですが、これは任意のスーパーアニュエーション、あるいはその他の個人貯蓄の部分です。これに対しても税制優遇措置がありますが、ここでは話の対象外とさせていただきます。
いまお話ししました現在のオーストラリアの退職所得制度は、1994年に世銀が発表した報告書に提唱されたストラクチャーと一貫性を持った制度となっています。スーパーアニュエーションファンドの資産はいまやオーストラリアの国民貯蓄のかなりの部分を占め、オーストラリア経済の牽引役を担っています。それではティア1からティア3まで、それぞれのティアの詳細について見ていきます。
Current State of Australia's Retirement Income System
まずティア1ですが、エイジペンションベネフィット、エイジペンション給付と呼ばれる部分です。これは受給資格が65歳以上、それから平均週間所得の約26%まで満額年金、そして所得、資産調査に基づいて給付を算定し、たとえばその人が独身か既婚か、持ち家かどうかに基づいて給付を計算します。
Current State of Australia's Retirement Income System
この二つのグラフは男女別に受給資格者の利用パターンを見ています。特徴を何点か申し上げたいと思いますが、年齢が上がるほどエイジペンションの利用が増えている。また、過去の世代についてはエイジペンションに完全に、あるいは部分的に依存していることがわかります。年金受給年齢の受給資格者の65%が所得の主な源泉としてこれを利用していることも、ここから浮かび上がってきます。それから高齢者の約80%が、現在エイジペンションを満額または部分的に受けていることがわかります。ですからオーストラリアのエイジペンション制度は本当の意味でのセイフティネット給付とはなっていないことがわかります。
Current State of Australia's Retirement Income System
このグラフはさまざまな福祉プログラムの、国家財政への影響を示しています。現在のエイジペンションのコストはだいたいGDPの3%となっています。日本の老齢年金のコストは1999年にはGDPの5%であったと私は聞いています。エイジペンションの財政にかかるコストは、今後40年間でGDPの4.6%ぐらいまで増えていくのではないかと言われています。
Current State of Australia's Retirement Income System
こちらのグラフは2000年から2050年までの老齢年金の各国の支出の伸びの国際比較を行ったものとなっています。これでわかりますように、どこの国でも老齢年金のコストは上昇傾向にあることがわかります。オーストラリアにおける上昇率はOECDの平均よりは低くなっていますが、今後オーストラリアにおいてもさらに効率を高め、社会保障と強制的スーパーアニュエーションの統合を図っていかなければならないという課題を示しています。
Current State of Australia's Retirement Income System
これからお見せする数枚のスライドはティア2、つまり強制的スーパーアニュエーションに関するスライドです。このグラフは、オーストラリアにおけるスーパーアニュエーションの歴史的なカバレッジの推移を示したものです。強制スーパーアニュエーションは、スーパーアニュエーションのカバレッジを1980年代の後半から1990年代の初めまで大幅に上昇させたことがおわかりいただけるかと思います。1980年代の終わり頃までカバレッジは比較的低く、主に男性のホワイトカラーをカバーするにとどまっていましたが、現在はティア2の強制的スーパーアニュエーションのカバレッジは受給資格を持つ従業員の約88%となっています。
Current State of Australia's Retirement Income System
オーストラリアにおいては、スーパーアニュエーションファンドに五つのタイプがあります。まず一つ目はスモールファンドと呼ばれるものです。これは小規模ファンドと訳すことができますが、メンバーが5人未満で、普通は確定拠出です。二つ目のタイプはコーポレートファンドと呼ばれる企業のファンドで、確定給付のものもあれば確定拠出のものもあります。それから三つ目がインダストリーファンドで、ある業種で働く人たちのためのファンドです。ほとんどが確定拠出で、レートは最低のスーパーアニュエーションギャランティレートとなっています。四つ目のタイプは公共部門、パブリックセクターファンドと呼ばれ、州あるいは国の公務員のファンドで、通常これは確定給付で、一部賦課方式を取っています。これには国会制定法があり、この国会制定法に基づいたファンドとなっています。それから最後の五つ目がリテールファンドで、自営業の人たちのためのファンド、それから中小企業のためのマスタートラストとなっています。
Current State of Australia's Retirement Income System
こちらの表はスーパーアニュエーションファンドの分布、2003年3月31日現在で示したもので、特徴をお話いたします。オーストラリアにはスーパーアニュエーションファンドが約26万あります。しかしそのうちの99%はスモールファンドとなっています。それからスーパーアニュエーションファンドの総資産は5080億オーストラリアドルとなっています。日本円に換算しますと38兆円ぐらいでしょうか。加入者の人数としてはだいたい2550万人となっています。先ほどオーストラリアの人口を申し上げましたが、人口に比べて加入者の数が多すぎないかとおっしゃるかもしれませんが、複数の口座、アカウントを持っている人がいます。それからスモールファンドですが、加入者数では2%のカバレッジでしかありませんが、資産ではスーパーアニュエーション資産の21%を占めています。それからインダストリーファンド、業種ごとのファンドは加入者の30%ぐらいをカバーしていますが、資産ではスーパーアニュエーションの資産合計の10%にしかすぎません。
Current State of Australia's Retirement Income System
先ほど触れましたようにスモールファンドはDCファンド、確定拠出ファンドであるのが普通ですので、これを除いた数字、つまりスモールファンドを除いたすべてのスーパーアニュエーションファンドの71%が確定拠出ファンドです。それから13%が確定給付ファンド、そして16%がハイブッリドファンドとなっていますが、ここで注目しておきたいのは確定給付ファンドについてはほとんどのものがすでにクローズドされていて、まだオープンで残っているものはあまりありません。オーストラリアにおいては確定給付から確定拠出へのシフトが起きています。
なぜかといいますと、まず強制スーパーアニュエーションが導入されましたが、強制スーパーアニュエーションがそもそも拠出にフォーカスした制度であったことが、まず一つ目の理由としてあります。それからインダストリーファンド、業種別のファンドが設立されたこともありますし、強制スーパーアニュエーションの環境の中で確定給付ファンドを運営するのは非常に複雑で難しいという理由もあります。それから投資リスクをできるだけ従業員にシフトさせたいという思いも、その背景にあります。
Current State of Australia's Retirement Income System
それ以外にもティア2についておもしろい点を指摘しておきたいと思います。まずティア2の特徴としてもう一つ言えるのは、プリザベーション義務があります。通常給付が60歳になるまでは据え置かれるという意味です。それから規制の縛りがかかっています。たとえばスーパーアニュエーション協会を監督するための法律とか税法とか、規制当局があり、スモールファンド以外のファンドに対してはこうした規制当局や法律の縛りがあります。
それからトラスティという特徴がありますが、これは5人以上の加入者を持つすべてのファンドに対してトラスティの設立が要件づけられています。そして雇用主、被用者両方から同人数の人間をトラスティに出さなければならないということで、このトラスティは慎重な運用をその責務としています。それから投資についてはsolepurposetest、それからインハウスの資産に制限する。そしてトラスティの名義の資産の運用政策について声明を出さなければならないといったような特徴があります。
Current State of Australia's Retirement Income System
また情報開示についても細かな規定が設けられています。加入者に対して詳細で、定期的な情報開示を行わなければならない。それから加入者保護という観点で、スモールアカウント、小さな小口の口座については手数料からくるエロージョン、バランス残高への食い込みから保護するという規定があります。
Current State of Australia's Retirement Income System
また、会計士とか監査人、アクチュアリーに対して課せられる責任があり、アクチュアリーに課せられる役割についてこれからお話しします。
IAAust and Roles of Australian Actuaries in Auperannuation
これまでのところでオーストラリアの退職所得制度についてご理解がいただけたのではないかと思いますが、その制度の中でアクチュアリーはどのような役割を課せられているのかお話しいたします。オーストラリアアクチュアリー会がオーストラリアにおいては唯一のアクチュアリーの専門家機関であり、1897年からその歴史が始まっています。そして会員に対する教育という意味ではロンドンのInstituteofActuariesとかスコットランドのFacultyofActuariesと密に関係を持っています。
IAAust and Roles of Australian Actuaries in Auperannuation
会員には、フェロー、認定会員およびアソイエーツ(準会員)、そして学生と4種類あり、フェローに関しては2002年時点で1237人でした。
IAAust and Roles of Australian Actuaries in Auperannuation
オーストラリアにおけるスーパーアニュエーションでアクチュアリーがどのような役割を果たしているかお話しします。アクチュアリーはスーパーアニュエーションファンドの財務管理に深く関与をしています。法律上の責任として定期的に確定給付の評価をし、ソルベンシーを認定しなければなりません。それからAPRAは規制当局ですが、当局に違反を通告しなければならないし、SG法(スーパーアニュエーションギャランティ法)の下での確定給付プランに給付証明書を発行するという役割も課されています。それに加えて確定給付プランについては3年ごとの評価をしなければなりません。また、その先3年間の拠出推奨額を提案します。それから財務ポジションについて計算書を作成し、3年間のうちに問題が発生する可能性についての資産による発生給付のカバレッジについて意見を述べます。そして3年間のうちに問題が発生する可能性についても意見を述べることが、役割として課せられています。
IAAust and Roles of Australian Actuaries in Auperannuation
40ページに飛びます。トラスティとAPRA(規制当局)に対してアクチュアリーは違反事項について報告をしなければなりません。つまりホイッスルブロアーの役割を果たさなければならない訳です。違反があった場合にはアクチュアリーとして告発をしなければならない義務を負っています。もしその責任を果たさなかった場合にはアクチュアリーに対して罰則が適用されます。
アクチュアリーは技術的に支払不能となったファンドの管理もしなければなりません。つまりアクチュアリーとしてファンディングとソルベンシーに関する証明書類でソルベンシーを証明できないようなファンドに関しては、その管理もしていかなければならないということです。ソルベンシーを証明できないような場合にはファンドを閉鎖するか、あるいはその後5年以内にファンドをソルベンシーに戻すことができるようなプランをアクチュアリーが策定しなければなりません。そういった意味でアクチュアリーには技術的にインソルベント、ソルベンシーがない期間においてファンドを管理しなければならないという非常に大きな責任を背負っています。つまりテクニカルな意味でインソルベンシー、支払不能に陥っている期間においては、アクチュアリーの承認なしにはトラスティとしてはファンドに対して何も手出しをすることができないことになります。
IAAust and Roles of Australian Actuaries in Auperannuation
Current and Emerging Issues in Superannuation in Australia
Current and Emerging Issues in Superannuation in Australia
Current and Emerging Issues in Superannuation in Australia
何ページか飛ばしまして、44ページです。スーパーアニュエーションファンドの財務ポジションは、ここのところ逆ざや状況となっておりまして、リターンがマイナスとなっています。そういう状況ですからソルベンシー支払能力については厳しくチェックをしていかなければならない状況にあります。その意味でアクチュアリーに課せられた責任はいままでにも増して重くなっています。特に多くの確定給付プランの財務状況が悪化しており、これを何とか改善していかなければならない状況です。
Comparison with Japan's Retirement Income System
これからお見せする数枚のスライドはオーストラリと日本の退職所得制度について高いレベルで比較をしたものですが、ティア3については比較をしておりません。
日本とオーストラリアの比較ですが、オーストラリアは先ほどから説明していますように福祉モデルに基づいたエイジペンションを導入しています。日本はこれに対して全国民を対象とした国民皆年金制度を取っています。日本の給付はフラット給付と所得比例、一方、オーストラリアのほうはフラット給付のみとなっています。オーストラリアにおいてはその給付モデルが福祉モデルであるということで、事前積立方式は取っていません。日本の場合は働いた期間に対して雇用主と従業員の双方が掛金を拠出する部分事前積立方式となっています。オーストラリアの給付の金額は日本に比べると小額です。日本の給付は普通の人に取ってはかなり大きな金額となっています。こういう違いが日豪間にはあります。
Comparison with Japan's Retirement Income System
いま申し上げたのはティア1のシステムの違いですが、ティア2の日豪間の違いはどうでしょうか。46ページですが、オーストラリアでは最低給付水準が義務付けられていますが、日本の給付水準は自由となっています。オーストラリアではほとんどのプランが確定拠出です。日本はまだほとんどが確定給付です。オーストラリアのガバナンスのストラクチャーとか、アクチュアリーに課せられた責任は非常に重いものがありますし、しっかりしたものとなっています。また日本においては、拠出評価をやるアクチュアリーは通常生保とか信託銀行に雇われていますが、オーストラリアでは主にコンサルタントに雇われているという違いがあります。
Comparison with Japan's Retirement Income System
オーストラリアはTTTシステム、つまり課税、課税、課税のシステムを採択しています。日本はEETシステム、非課税、非課税、課税のシステムを採択しています。ただ、日本では現在資産に対する特別法人税は一時凍結されています。オーストラリアでは従業員に対するコミュニケーションに非常にさまざまな要件が設定されています。日本には確定給付プランについては基本的な要件しかありません。
Summary
まとめたいと思います。まずオーストラリアと日本は両方とも先進国ですが、さまざまな意味で日本のほうがオーストラリアよりも規模が大きいといえます。両国とも高度に洗練された退職所得制度を有していますが、双方とも負担増が今後の課題となっています。また、先進各国においては老齢年金のコスト上昇がグローバルな問題となっています。
オーストラリアは一つの特徴として福祉給付モデルのエイジペンション給付制度がありますが、現在は少なくとも本当の意味でのセイフティネットとしては機能していません。オーストラリアの退職所得制度は3階建てです。また、オーストラリアのほとんどのスーパーアニュエーションファンドはいま確定拠出となっています。
オーストラリアにおけるアクチュアリーは政府のレベルにおける政策立案にも非常に大きな役割を果たしていますし、またスーパーアニュエーションファンドの財務運営でも非常に大きな役割と責任を担っています。また、日本に比べますとオーストラリアにはより厳しい、正式なガバナンスの手続きがあり、またアクチュアリーの役割、責任も非常に重くなっています。これはスーパーアニュエーションのカバーを受ける従業員を保護するためです。最初のほうでお見せをした数字に基づいての判断ですが、日本はもっとアクチュアリーの数を増やす必要があるのではないでしょうか。
ご清聴ありがとうございました。(拍手)
Reference