「退職給付制度間の移行等に関する会計処理(案)」について

企業会計基準委員会 御中

平成14年1月16日
社団法人 日本年金数理人会

拝啓 貴委員会益々ご隆昌のこととお慶び申し上げます。
さて、貴委員会より平成13年12月26日付にて公開された「企業会計基準適用指針公開草案第3号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理(案)」」に関して、年金数理に関する専門職団体として、下記のとおり意見を申し上げますので、宜しくご検討下さるようお願い申し上げます。

敬具

1.確定拠出年金制度への資産を移換する場合の特例措置の要否について(第21項)

当会の基本的な考え方は、制度の終了と減額を区分することなく、いずれも一時認識を原則とすべきとするものである。(詳細は後述のとおり)
一方、当会はあらゆる企業年金制度に関与する立場であることから、制度の選択に関して中立的であることが求められている。
論点となっている繰延処理の導入については、確定拠出年金制度への移行を円滑ならしめるための特例措置とされており、当会としては特定制度への移行に係る特例措置について言及する立場にないため、本件についての要否のコメントは差し控える。

2.減額の会計処理について

  1. 平成10年6月16日に企業会計審議会から公表されている「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「意見書」という。)では、給付水準の引下げ等によって退職給付債務が減少する場合もマイナス値の過去勤務債務として認識し、プラス値の過去勤務債務と同様に一定の期間による繰延認識が容認されている。
    この理由としては、過去勤務債務の発生要因である給付水準の改訂等が従業員の勤労意欲を将来にわたって向上するとの期待のもとで行われる面があること等が挙げられている。
    しかしながら、勤労意欲が将来にわたって向上するという期待は増額改訂をした場合に当てはまる考え方であり、同様の論法が給付水準の引下げによって生じるマイナス値の過去勤務債務の場合についても適用できるものかどうかについては、疑問のあるところである。
    特に、わが国で一般的に実施されている過去期間に係る受給権を侵害する形での給付減額はわが国固有の事態であり、米国等においては、発生済みの受給権が明確に保護される法制が完備され、そのような事象そのものが想定されにくいものであるため、国際的なルールとの整合性を考える場合にも、この点に十分留意しておく必要がある。
  2. 平成10年6月に企業会計審議会の意見書が出されて以後、長引く景気低迷の影響により過去期間分を含む減額改訂が急増しており、また、昨年6月に企業年金関連二法が制定され、それを受けた制度間の移行が今後増加すると予想されるなど、わが国の退職給付制度を巡る状況が大きく変化してきている事情もある。
    当会としては、このような事情変更を背景に、意見書を合理的に解釈することにより、本公開草案で区分して会計処理を規定している「制度の終了」や給付水準の引下げ等によって生じる「退職給付債務の減額」については、特段の区分を行うのではなく、すべて一時認識する方法が妥当であると考えている。
    このような当会の基本的な考え方に立てば、論点とされている「退職給付制度の改定に伴い退職給付債務が大幅に減額されるような場合」や「将来勤務に係る部分の退職給付の減額改訂により退職給付債務が減少する場合」の会計処理についても当期の一時認識をすることになり、特段の区別は必要なくなる。
    このような取扱いは、意見書の内容を実質的に変更するものであることから、上記の事情変更を踏まえ、現行の意見書の減額改訂について所要の見直しを行うことが必要であろう。
  3. しかしながら、貴委員会において、意見書の内容を実質的に変更できるほどの事情変更がないと判断されるのであれば、以下の理由により、減額改訂時においてはすべてマイナス値の過去勤務債務として取り扱うことでやむを得ないものと考える。
    1. 大幅な減額改訂の場合
      マイナス値の過去勤務債務を認めることを前提とする以上、減額改訂の大きさによって会計処理を変えるという理屈が見出しにくいこと。
      また、その効果が退職給付制度の終了に近いような大幅な減額改訂を行う事例は、労使関係の維持の観点等から制度運営の実態上想定しがたいこと。
    2. 将来勤務に係る部分の減額改訂の場合
      1. わが国の会計基準では退職給付債務の算定方法は原則として期間定額基準となっているため、設例A-3-3で示されているような将来勤務に係る部分だけを確定給付型から確定拠出型へ移行するような場合には、この退職給付債務の算定方法を主因として退職給付債務が大きく減少する事態も想定される。
        このような場合、算定される退職給付債務の減少額のほとんどが、期間定額基準という算定方法を用いていたために生じた計算技術上のものとなり、将来勤務に係る部分の減額によるものとは言いがたい事態が生じる可能性があること。
      2. 法制上や慣習上の相違から、わが国の退職給付制度で実施されている減額改訂はそのほとんどが過去期間を含む全勤務期間にわたる給付水準の引下げであり、計算技術上も当該過去勤務債務の減少額から将来勤務に係る部分だけを分離することが極めて困難であると思われること。
      なお、過去勤務に係る部分が明確に凍結され、将来勤務に係る部分のみを減額するような制度改訂が生じた場合には、上記の理由1.で述べたような事態を回避するために、退職給付債務の算定方法を期間定額基準から支給倍率基準に変更することも認める必要があろう。

以上

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