退職給付会計における厚生年金基金の代行部分の取扱いについて

平成16年2月18日

退職給付会計における厚生年金基金の代行部分の取扱いについて

社団法人 日本年金数理人会

厚生年金保険法の改正案は平成16年2月10日に国会に提出された。

この法案が成立すれば、厚生年金基金の免除保険料率の凍結が解除され、免除保険料を超える代行部分に関する負担が、解除後においても事業主に及ばないことが明確となる。

日本年金数理人会は、これまでも厚生年金基金の代行部分に関し、年金制度の財政運営の観点から「企業会計における代行部分の取扱い」について、また企業間の公平な比較の確保の観点から「企業会計における代行部分の情報開示」についての意見を述べてきた。

このたびの厚生年金保険法の改正案が成立すれば、凍結解除後の代行部分に関する負担が明確となり、企業会計における代行給付の取扱いについての基本的な前提が変更されることになるとの認識のもとで、下記のとおり当会としての意見をまとめ、広く公表することとした。

1.厚生年金保険法の改正案は企業会計における代行部分の取扱いの「基本的な前提を変える制度改革」である。

  • 厚生年金保険法の改正案では、免除保険料率の凍結解除について、以下の内容が示されている。
    • 最低責任準備金の計算方法は元利合計計算方式が維持される。
    • 代行給付現価の1/2を最低責任準備金が下回るときは、追加資金を国が基金へ財源手当てし、企業の追加負担は発生しない。
  • 厚生年金基金の代行部分は、この凍結解除により免除保険料と国からの財源手当と政府負担金で財政運営が行われるため、免除保険料を超える負担は事業主に対しては発生しないことが明確になった。
  • このため、日本公認会計士協会「退職給付会計に関する実務指針(中間報告)」(平成11年9月)における「II 結論の背景」(以下、「背景」という。)に記載の、「凍結期間中に退職給付債務と最低責任準備金の乖離が増大し、それが凍結期間終了後に未認識の債務として事業主にのしかかる場合」は生じないことになる。
  • 従って、この改正案は「背景」に(代行部分の取扱いに関する)「結論を再検討すべき」事態として記載されている「凍結期間が解除されたときに事業主に負担が及ばないこと等、基本的な前提を変える制度改革があった場合」に正に該当することになる。

2.このような「基本的な前提を変える制度改革」が成立すれば、退職給付会計の実務指針について、結論を再検討すべきである。

  • 代行部分の退職給付債務に係る会計処理について、上記1.に述べた「基本的な前提を変える制度改革」という事態を踏まえ、「背景」にもとづいた再検討を早急に行うべきである。
  • 具体的には、日本公認会計士協会「退職給付会計に関する実務指針(公開草案)」(平成11年8月3日)に記載されていたとおり、「厚生年金基金の代行部分を退職給付会計基準で定める退職給付の対象外にする取扱い」とすべきである。

以上

日本公認会計士協会「退職給付会計に関する実務指針(中間報告)」 (平成11年9月14日) II 結論の背景 ~抜粋~

免除保険料及び最低責任準備金の凍結

61. 平成11年9月3日に厚生年金基金令の一部を改正する政令が公布され、免除保険料率及び最低責任準備金(代行部分見合いの責任準備金)は厚生年金の保険料率が変更されるまでの間凍結されることとなった。(注)
このような措置が実施されるが、代行部分の退職給付債務に係る会計処理については、基金の継続時において事業主が一切の負担責任を免れることがないことから、凍結期間中に退職給付債務と最低責任準備金の乖離が増大し、それが凍結期間終了後に未認識の債務として事業主にのしかかる場合の影響の大きさを勘案し、前項の会計処理を継続して適用することとした。なお、別の方法として、現時点では、代行部分の退職給付債務と最低責任準備金の差異を事業主の退職給付債務として取り扱わず、偶発債務として注記し、凍結期間終了後、事業主に負担が戻った時点で代行部分の退職給付債務を事業主の退職給付債務として認識する方法も考え得るが、前項の会計処理を支持することとし、偶発債務の注記方式を採用しなかった。
また、凍結期間が解除されたときに事業主に負担が及ばないこと等、基本的な前提を変える制度改革があった場合には、結論を再検討すべきと考える。なお、前項に従った会計処理を行うことは、財務諸表の注記において、退職給付債務と最低責任準備金との比較等企業が追加的な説明を加えることを制約するものではない。

(注)凍結期間中の最低責任準備金は、平成11年9月末の最低責任準備金を基に、その後の免除保険料(基金への拠出)を加算し、代行給付費(基金からの代行部分の給付)を減算し、運用収益(厚生年金の実績利回りによる)を加算することで算出される。

日本公認会計士協会「退職給付会計に関する実務指針(公開草案)」 (平成11年8月3日)~抜粋~

[付記] 厚生年金基金の代行部分の取扱い

「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書」(平成10年6月16日企業会計審議会 以下「意見書」という。)では、母体企業が制度の運営及び維持に実質的に関与しており、過去勤務債務等が発生したときには、通常、全額を母体企業が負担している場合が多いことなどの理由により代行部分とそれ以外を区分せずこれを全体として一つの退職給付とみなして、財政計算上の計算方法にかかわらず同一の会計処理を適用することとされている。
現在、年金審議会及び社会保障制度審議会の答申において、免除保険料率及び最低責任準備金の凍結が了承されている。そこでは、次のような取扱いが示されている。「凍結に伴って厚生年金基金の代行部分の財政運営は、凍結された免除保険料率に基づいた免除保険料と代行給付(支出)との差を基準として算定される新しい最低責任準備金の額を、代行部分の資産として確保する形でなされる。」このように凍結が実施されれば、代行部分については、新しい最低責任準備金の額がそのまま代行部分の資産となり追加負担が発生しないと考えられる。したがって、意見書にある「過去勤務債務等が発生したときには、通常、全額を母体企業が負担している」ことに該当しないことになるため、厚生年金基金の代行部分を退職給付会計基準で定める退職給付の対象外にする取扱いが妥当になるものと考えられる。

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