国際財務報告解釈指針委員会(IFRIC)解釈指針案D9に関する意見

2004.9.21
社団法人 日本アクチュアリー会
社団法人 日本年金数理人会

国際財務報告解釈指針委員会(IFRIC)解釈指針案D9に関する意見

日本アクチュアリー会および日本年金数理人会は、国際財務報告解釈指針委員会(IFRIC) の解釈指針案D9拠出金または名目的拠出金に対する収益が約束された従業員給付制度に関 して、次のような意見を提出します。

第6節への意見

日本のキャッシュバランスプランおよびキャッシュバランスプラン類似(注)の制度に関 しては、次の理由により解釈指針案D9を適用して適切に退職給付債務を計算することが困 難である。このため、解釈指針案D9のパラグラフ6に「仮想勘定残高が退職給付債務とし て適切でない場合には、将来給付を予測し、これを割り引くことによって給付の現価をもと めることができる」ことを追加することを提案したい。これによって、日本のキャッシュバ ランスプランおよびキャッシュバランスプラン類似制度は、通常の確定給付制度の退職給付 債務計算と同様の手法より適切に債務を算定することができるようになる。

理由

日本における確定給付型の従業員給付制度は一時金給付が基礎となっており、(保証期間 付き)終身年金を給付する場合であっても、一時金額と等価な確定年金の年金額を給付する ことが一般的であり、キャッシュバランスプランやキャッシュバランスプラン類似制度に関 しても同様である。

日本で実施されているキャッシュバランスプランでは、年金給付額は、上述のとおり年金 開始時の仮想勘定残高をあらかじめ支給期間が定められた確定年金の現価率で除して得た額 とすることが通常であり、制度が終身年金を給付する場合にも、このように決められた年金 額給付を終身にわたって支払うことが多い。したがって、終身年金を給付する制度において は、年金開始時の仮想勘定残高は確定年金部分(保証期間部分)の給付に充てられ、それ以 降(保証期間経過後)の給付は、仮想勘定残高とは別に事業主が負担することになる。

この仮想勘定残高とは別に事業主が負担する給付は退職給付債務に計上されなければなら ない。この部分の退職給付債務を算定するためには、将来の年金給付額の予想と割引率を用 いた現価計算を行うことが必要である。一方、解釈指針案D9では、将来の収益により給付 額が変動する制度においては、将来の給付の予測を行い現価計算を行うべきではなく、貸借 対照表日付における仮想勘定残高を債務とすることとされている。このため、終身年金を支 給する日本のキャッシュバランスプランに解釈指針案D9を適用した場合、多くの制度で退 職給付債務が過小に評価されてしまうことになる。

また、キャッシュバランスプラン類似制度では、退職前の仮想勘定残高の概念が存在せず、 退職時の一時金給付は、収益率によって変動しない。一方、年金給付は、収益によって給付 額が変動する。

このような制度に、解釈指針案D9を適用することは想定されていないと考えられるが、 仮に解釈指針案D9をこのような制度に適用する場合には、退職前の仮想勘定残高を新たに 定義する必要がある。また、解釈指針案D9を適用しないとした場合、通常の確定給付制度 の退職給付債務の計算をこの制度に適用するとなるが、将来の収益によって変動する給付を 予測し、現価計算を行うことを避けることができない。このため、このような適用のしかた は、解釈指針案D9の考え方との間で矛盾が生じる。

第8節への意見

運用収益率にマージンが含まれる場合、マージンの影響を債務に反映することに同意する。 しかし、制度債務はマージンの効果の配分方法に応じて変動する。配分方法は、例えば「マ ージンに対する費用は、勤務年数に応じて均等に配分される。」というように、解釈指針で 特定されるべきであると考える。

以上

(注)日本には、次のようなキャッシュバランスプランに類似する従業員給付制度が普及している。

  1. 退職時の給与と勤務年数に基づいて計算される一時金の給付額を退職時の名目上の年金の資産とする。
  2. 退職時から年金開始時までの期間および年金開始後の期間について名目上の資産に対する収益を加味して年金給付額が再評価される。

ページトップへ

  • オピニオン