企業会計基準委員会あて意見書「退職給付会計における厚生年金基金の代行部分の取扱いについて」
平成18年11月7日
企業会計基準委員会
委員長 斎藤静樹 殿
退職給付会計における厚生年金基金の代行部分の取扱いについて
社団法人 日本年金数理人会
理事長 山口 修
拝啓 貴委員会益々ご隆昌のこととお慶び申し上げます。
さて、貴委員会より平成18年10月27日に公開された実務対応報告第22号「厚生年金基金に係る交付金の会計処理に関する当面の取扱い」に関して、年金数理に関する専門職団体として、下記のとおり意見を申し上げますので、宜しくご検討下さるようお願い申し上げます。
敬具
記
日本年金数理人会は、平成16年年金制度改革によって免除保険料率の凍結解除および凍結解除後の代行部分の財政構造が根本的に改正されたことを受けて、退職給付会計における厚生年金基金の代行部分の取扱いについて、根本的な見直しの必要性を述べてきた。その要点を改めて簡記すれば次の通りである。
- 平成16年年金制度改革によって、最低責任準備金の算定方法が過去法(いわゆるコロガシ計算)によることが恒久化され、一定の場合における政府(厚生年金本体)からの交付金が規定された。
- これによって、代行部分の財政は、厚生年金保険本体で一元的に管理される構造に根本的に変化した。事業主にとっては、代行部分について、最低責任準備金額に見合う年金資産を保有することが責務であり、運用リスク(資産運用収益の変化によるメリット・デメリットの不確実性)を負う点のみが代行しない場合との本質的な違いとなった(事務的な面を除く)。
- 以上のように、根本的に変化した財政構造を事業主の会計処理に適切に反映するために、代行部分について退職給付会計で定める退職給付の対象外とするべきである。退職給付会計における取扱いとしては、年金資産額から最低責任準備金額を控除することが適切である。なお、その場合、事業主における交付金の会計処理は何も行わないこととなる。
平成18年10月27日に企業会計基準委員会から実務対応報告第22号「厚生年金基 金に係る交付金の会計処理に関する当面の取扱い」が公表された。同報告書では、検討過程の意見として、当会の主張内容も盛込まれているものの、『これらの意見については、確定給付型の企業年金制度を前提とした会計処理を示している退職給付会計基準において、何をもって確定給付型と捉えるかなど国際的にも議論されつつある事項も含まれており、また、厚生年金基金制度が通常の確定給付型の企業年金制度と異なる特殊な制度といっても、退職給付会計基準の中で例外的に対応することの便益と他の会計処理への影響との比較衡量など、なお検討を要すると考えられることから、本実務対応報告では、議論の要点を示すに止め、現行の退職給付会計基準に則して当面必要と考えられる実務上の取扱いを示すこととした。』として、代行部分の基本的な取扱いについては結論を見送っている。その上で、厚生年金基金が政府から受け取ることとなった交付金は、交付される都度、退職給付費用から控除する取扱いが示された。
このように審議不充分であることを認識しつつも、当面の実務上の取扱いとはいえ、平成16年年金改革によって根本的に改正された代行部分の財政構造が正しく反映されているとはいえない処理が示されたことは、甚だ遺憾である。
同報告書は、『なお、上述した議論については、将来の退職給付制度の見直しや退職給付会計に関する国際的な議論の進展を踏まえ、今後、検討するものとする。』と結ばれている。しかし、代行部分は、国際的に議論されつつある事項との関係はあるものの、代行部分自体は我が国固有の仕組みであり、早期に本格的な議論を開始して、その本質に適う会計処理に改正する必要があると考える。
以上