日本公認会計士協会実務指針における「代行部分の取扱い」について

平成11年9月14日
社団法人日本年金数理人会

日本公認会計士協会から公表された「退職給付会計に関する実務指針」によれば、厚生年金基金制度の代行部分の取扱いについては、公開草案時に比しその内容が大きく変更されている。
一方、平成11年9月3日付の政令改正により、厚生年金基金制度において免除保険料率の凍結や最低責任準備金の算定方法の改定が行われた。
企業会計基準は、投資家保護の観点から企業の適切な情報開示を確保することを目的として定められる基準である。一方、厚生年金基金制度上の年金債務の考え方は、長期にわたって安定的な年金支給を確保するために必要なものとして定められており、企業会計基準上の年金債務の考え方とは異なるものと認識している。
日本年金数理人会は公開草案を支持していた立場であり、年金制度の財政運営の観点から、代行部分の会計上の取り扱いに関する考え方は、以下のとおりである。

1.保険料凍結期間中は代行部分を退職給付の対象外とすることが妥当

厚生年金保険の保険料率が凍結されている期間中においては、上記の政令に示されているように、免除保険料率が凍結され、厚生年金基金の代行部分に関する財政運営上の責任は、上記の政令で新たに算定方法の示された最低責任準備金を確保することで担保されることとされており、厚生年金の運用利回りを確保すれば代行部分についての企業の追加負担は発生しないものとなっている。
これは、公開草案で「追加負担が発生しないと考えられる。」とされた前提に相当しており、平成10年6月の企業会計審議会意見書からの事情変更と考えられる。

2.保険料凍結期間後の代行部分の扱いは、凍結解除時に改めて判断するのが適当

厚生年金保険の保険料率の凍結期間後の代行部分の扱いについては、上記の事情変更の事実を踏まえつつ、代行保険料率は収支相等の原則に基づいて算出すべきこととの趣旨で明記されている厚生年金保険法上の厚生年金基金制度の財政運営の考え方に沿って、基金運営に支障が生じないよう、凍結期間中の免除保険料の不足を含め、凍結解除時に決定されるものと考えている。
このため、代行部分の会計上の取扱いは改めてその時点で判断するのが適当ではないかと考える。

(参考) 企業会計審議会意見書からの事情変更の経緯等

  1. 企業会計審議会意見書では代行部分を退職給付として一体的に取り扱う論拠として次の2点を挙げている。
    1. 一つの運営主体によって、資産が一体として運用され一括して給付が行われており、区分計算することが難しいこと。
    2. 母体企業が制度の運営及び維持に実質的に関与しており、過去勤務債務等が発生したときには、通常、全額を母体企業が負担している場合が多いこと。
  2. 今回の政令改正により、基金の財政運営は次のとおりに変更された。
    1. 最低責任準備金が基金の代行部分の負債となること。
    2. 責任準備金の算定上、免除保険料そのものを基金の代行部分の掛金として取り扱うこと。
    3. 代行部分に関する基金の運用リスクが、本体の運用実績利回りを基準としたものとなること。
    これにより、最低責任準備金の算定方法が将来の給付の評価を行う方式から本体の運用実績利回りを用いた残高管理的な方式に変更され、この変更後の最低責任準備金を確保することが代行部分に関する財政運営上の責任となるようになった。
  3. この結果、凍結期間中の代行部分の取扱いについては、次のとおり、企業会計審議会意見書で指摘された論拠が政令により変更されており、公開草案の前提が現実のものとなっていることから、日本年金数理人会は、公開草案に沿えば、代行部分を退職給付会計基準で定める退職給付の対象外とすることが妥当であると考えたところである。
    1. 凍結期間中は、負債認識と掛金設定において、代行部分とプラスアルファ部分を区分して運営されることになったこと。
    2. 凍結期間中は、基金の運用利回りが本体の運用実績利回りを下回った場合に限って追加負担が発生することになり、財政運営上のリスク負担の構造が大きく変化したこと(現実の損益については、本体及び基金のそれぞれの運用実績に依存する点で偶発的なものと考えられる)。
    なお、代行部分を退職給付の対象外とする場合でも、企業への投資家に対し、その企業が設立に参加している厚生年金基金制度における最低責任準備金の額を明らかにすることは当然のことであると考えている。

以上

日本公認会計士協会「退職給付会計に関する実務指針(公開草案)」(平成11年8月3日)~抜粋~

[付記] 厚生年金基金の代行部分の取扱い

「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書」(平成10年6月16日企業会計審議会 以下「意見書」という。)では、母体企業が制度の運営及び維持に実質的に関与しており、過去勤務債務等が発生したときには、通常、全額を母体企業が負担している場合が多いことなどの理由により代行部分とそれ以外を区分せずこれを全体として一つの退職給付とみなして、財政計算上の計算方法にかかわらず同一の会計処理を適用することとされている。
現在、年金審議会及び社会保障制度審議会の答申において、免除保険料率及び最低責任準備金の凍結が了承されている。そこでは、次のような取扱いが示されている。「凍結に伴って厚生年金基金の代行部分の財政運営は、凍結された免除保険料率に基づいた免除保険料と代行給付(支出)との差を基準として算定される新しい最低責任準備金の額を、代行部分の資産として確保する形でなされる。」このように凍結が実施されれば、代行部分については、新しい最低責任準備金の額がそのまま代行部分の資産となり追加負担が発生しないと考えられる。したがって、意見書にある「過去勤務債務等が発生したときには、通常、全額を母体企業が負担している」ことに該当しないことになるため、厚生年金基金の代行部分を退職給付会計基準で定める退職給付の対象外にする取扱いが妥当になるものと考えられる。

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