(要旨)

今後、企業会計における退職給付債務に係る情報開示等に関する実務上の取扱いが整備される運びであることから、日本年金数理人会は、専門職能団体として、企業間の公平な比較可能性を確保する必要があるとの観点から、企業会計における厚生年金基金の代行部分の情報開示について、以下のように意見を述べることとした。

企業間の公平な比較可能性を確保する観点から、基金設立企業の財務諸表について、基金未設立企業や基金制度のない外国の企業との間の客観的で正確な比較分析が行えるようにする必要があると考える。具体的には、基金設立企業が退職給付債務の評価を行う場合には、もれなく、その財務諸表に、

  • 退職給付会計における代行部分に係る退職給付債務の額
  • 基金制度における代行部分に係る最低責任準備金の額
  • これらの差額分に関する説明

を注記し、企業が代行部分に関して認識している債務の明細について情報開示を行う必要があるものと考える。

厚生年金基金設立企業における代行部分の情報開示について

平成11年11月11日
社団法人日本年金数理人会

企業会計審議会の「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書」(平成10年6月16日、以下「意見書」)及び日本公認会計士協会の「退職給付会計に関する実務指針(中間報告)」(平成11年9月14日、以下「実務指針(中間報告)」)により、厚生年金基金設立企業においては、厚生年金基金の代行部分について、厚生年金基金制度上の債務である「最低責任準備金の額」に加え、それとは異なる企業会計上の「代行部分に係る退職給付債務の額」の認識を求められることとなった。
今後、企業会計における退職給付債務に係る情報開示等に関する実務上の取扱いが整備される運びであることから、日本年金数理人会は、専門職能団体として、企業間の公平な比較可能性を確保する必要があるとの観点から、企業会計における厚生年金基金の代行部分の情報開示について、以下のように意見を述べることとした。

1.厚生年金基金設立企業においては退職給付債務の額だけでは情報が不十分

  • 厚生年金基金設立企業の財務諸表については、「実務指針(中間報告)」により、厚生年金基金の代行部分についても退職給付に含めて他の退職給付と同じ方法により退職給付債務を計算することとされた。
  • 一方、厚生年金基金制度の財政運営については、政令(平成11年9月3日)により、厚生年金保険料率の凍結期間中は、厚生年金本体に対し負っている代行部分の債務である最低責任準備金の算定方法が、本体の運用実績利回りを用いた残高管理的な方式に変更されるとともに、この変更後の最低責任準備金を確保することが代行部分に関する財政運営上の責任となった。
  • これらの結果、厚生年金基金設立企業においては、代行部分に関して、厚生年金基金制度上の債務である「最低責任準備金の額」に加え、それとは異なる「代行部分に関する退職給付債務の額」を企業会計上の債務として認識することが求められるようになった。
  • 「意見書」では、厚生年金基金のブラスアルファ部分や退職一時金等を含めた全体としての退職給付債務の額等について注記することとされているものの、代行部分に関する上記のような事情を考えると、これだけでは、投資家に提供される情報としては不十分である。

2.公平な比較のため、代行部分の退職給付債務額、最低責任準備金の額及び差額分の説明を注記し、代行部分について情報開示が必要

  • 日本年金数理人会は、専門職能団体として、企業間の公平な比較可能性を確保する観点から、基金設立企業の財務諸表について、基金未設立企業や基金制度のない外国の企業との間の客観的で正確な比較分析が行えるようにする必要があると考える。
  • 具体的には、基金設立企業が退職給付債務の評価を行う場合には、もれなく、その財務諸表に、
    • 退職給付会計における代行部分に係る退職給付債務の額
    • 基金制度における代行部分に係る最低責任準備金の額
    • これらの差額分に関する説明
    を注記し、企業が代行部分に関して認識している債務の明細について情報開示を行う必要があるものと考える。
  • なお、このような注記をすることは、「実務指針(中間報告)」において、「退職給付債務と最低責任準備金との比較等企業が追加的な説明を加えることを制約するものではない。」とされていることにも対応しているものである。
  • 当会の会員は、厚生年金基金の財政運営に深く関与している職責から、上記のような注記に関与する場合には、基金設立企業に、基金制度上の債務と企業会計上の債務の差異等について確実に理解されるよう十分な説明を行うこととしている。

以上

(参考)

ページトップへ

  • オピニオン